DOLLY
TOTO ギャラリー・間の展覧会「中村好文 小屋においでよ!」が好評を博し、金沢21世紀美術館でも同タイトルの企画展が開催されるなど、中村好文さんと小屋に深いつながりがあることを知ってる人は知っています。
『食う寝る遊ぶ 小屋暮らし』は、小屋を作って、そこで暮らして、実際に感じたことを建築家が記した唯一無二のレポートです。
小屋暮らしの魅力があふれる内容で、読み物としても楽しめます。
建築業界の人だけでなく、幅広い層の人たちに読んでほしい一冊です。
文明から離れた暮らしの実験
生活を便利にしようとする発明や経済活動によって文明の進化はもたらされますが、住宅における文明度は「線」と「管」の数で計られてきたと中村好文さんは考察しています。
この本は、上下水道、電気、ガスなど、現代の「普通の住宅」では無いと困る
- 電力は風力発電とソーラー発電でまかなう
- 水は屋根で集めた雨水を浄化して使う
- 調理は炭火を燃料とする七厘またはキッチンストーヴ
- お風呂は薪で焚く五右衛門風呂
- トイレは簡易水洗トイレ(汲み取り式)
この本の「p.4 はじめに」で、エネルギーを自給自足する小屋暮らしのさわりが示されています。
いかにも不便で不自由な環境ですが、中村好文さんの軽妙な語り口にかかれば、この小屋での暮らしが魅力的に映るから不思議です。
旅鼠の小屋の建築的工夫
エネルギーを自給自足する小屋暮らしの舞台は「LEMM HUT」
中村好文さんの干支の子年にちなんで名づけられた「LEMMING HUT」の略称で、直訳すると「旅鼠の小屋」になります。
もともと建っていた開拓者夫妻の小さな家の骨組みだけを残して、大幅に増改築することで作られた小屋ですが、サイズは約14坪程度の大きさ(小ささ?)
14坪を平米に換算すると約46㎡なので、少しゆとりのある1LDKのおうちくらいの広さです。
そこに6名から最大15名程度の人が寝泊まりできるというのですから、生活の知恵と創意工夫の精神が必要なのはもちろんですが、建築的工夫も随所に盛り込まれています。
- 移動式電灯
- キッチンストーヴ
- パランサー付き上げ下げ戸
- 一本引き横長建具
- ソファ・ベッド
- 断熱・エアタイト・防塵クッション
- 七厘レンジ
この本で紹介されていた中で、もっとも私の心を惹きつけたのは「一本引き横長建具」です。
普通であれば三本溝でそれぞれを片引きにする「ガラス戸」「網戸」「雨戸」が一本引きで造られています。
しかも、隣り合っている二つの窓が連動するようになっており、ガラス戸+網戸+雨戸+ガラス戸+網戸+雨戸が一枚仕立てになっているので、総延長が5.5メートルの大きな建具です。
小屋の裏側に取り付いているので、全体が見渡せる写真は残念ながら掲載されていませんが、中村好文さんのイラストと文章でその姿がありありと目に浮かびます。
愉快で豊かな小屋暮らし
LEMM HUTは週末や休暇を過ごすための建物ですが、「別荘」や「山荘」と呼ぶには簡素(中村好文さんは質素と語っています)なので、「小屋」という呼び名のほうがしっくりきます。
この小屋を訪れた人は、部屋の大掃除を皮切りに、高架水槽と量水メーターの点検、ポンプの水汲み、炭火料理の火熾し、薪での風呂焚き、などなど、多くの生活作業をしなければいけません。
現代的な生活を送っている私たちにとっては、不便で不自由な暮らしだと感じてしまうのではないでしょうか。
しかし、その不便や不自由を
繰り返しますが、小屋の暮らしは不便や不自由と背中合わせです。その暮らしぶりを「面倒」と感じるか「愉快」と感じるか、また「貧しい」と感じるか「豊か」と感じるかが、小屋の似合う人かそうでないかの、大きな分かれ目です。
食う寝る遊ぶ 小屋暮らし p.70
中村好文さんは、このように語っています。
小屋の似合う人でありたいものです。
食う寝る遊ぶ 小屋暮らし
住宅建築家として認知されている中村好文さん。
住まいや暮らしに深い探究心を持った建築家であることは周知の事実ですが、この本を読むとより一層その
また、リズムのよい文章と豊富な写真やイラストによって、まるでその場に居るかのような感覚でLEMM HUTでの小屋暮らしの空気感も味わえます。
不便や不自由の中に「